個人の事業用資産についての納税猶予

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1  概要
 特例事業受贈者が、平成31年1 月1 日から令和
10年12月31日までの間に、贈与により特定事業用
資産を取得し、事業を継続していく場合には、担
保の提供を条件に、その特例事業受贈者が納付す
べき贈与税額のうち、贈与により取得した特定事
業用資産の課税価格に対応する贈与税の納税が猶
予されます。

⑴ 特例事業受贈者の範囲
 贈与者から贈与により特定事業用資産の取得
をした個人で、次に掲げる要件の全てを満たす
者をいいます(措法70の6 の8 ②二、措規23の
8 の8 ③~⑥)。
① 贈与の日において18歳(令和4 年3 月31日
までは、20歳)以上であること
② 中小企業における経営の承継の円滑化に関
する法律第2 条に規定する中小企業者であっ
て同法第12条第1 項の経済産業大臣(同法第
16条の規定に基づく政令の規定により経済産

業大臣の権限に属する事務を都道府県知事が
行うこととされている場合には、当該都道府
県知事)の認定を受けていること
(注) この認定を受けるには、事前に下記⑦の
確認を受ける必要があります。
③ 贈与の日まで引き続き3 年以上にわたり特
定事業用資産に係る事業(当該事業に準ずる
ものを含みます。)に従事していたこと
(注) 特例事業受贈者は、贈与者(先代事業者)
の事業に従事していることが原則とされて
いますが、贈与者の事業に従事するために
学校に通っている場合や贈与者の事業と同
種・類似の事業を営む他の事業者のもとで
事業に従事している場合も、特定事業用資
産に係る事業に含まれることとされていま
す(措規23の8 の8 ⑤)。具体的には、個人
の診療所を承継するために大学病院で研修
医として従事している場合や料理店を承継
するために他店で板前修業をしている場合
などが考えられます。
④ 贈与の時からその贈与税の申告書の提出期
限まで引き続き特定事業用資産の全てを有し、
かつ、自己の事業の用に供していること
⑤ 贈与の日の属する年分の贈与税の申告書の
提出期限において、所得税法の規定により特
定事業用資産に係る事業について開業の届出
書を提出していること及び青色申告の承認
(みなし承認を含みます。)を受けていること
(注1 ) この開業の届出書の提出と青色申告の
承認の要件は、贈与税の申告書の提出期
限において満たしていれば足りるため、
特例事業受贈者が贈与者(先代事業者)
から事業を引き継ぐ前から自己が営む他
の事業について既に開業の届出書を提出
している場合や青色申告の承認を受けて
いる場合には、贈与者からの贈与後に改
めてこれらの手続をする必要はありませ
ん。
(注2 ) 本税制を適用するためには、対象資産
を整理し、リストを作成する必要があり、
猶予税額の計算上、これを適正に行うた
めには、事業用の資産・負債について、
極力明確な整理がなされている必要があ
るところ、青色申告者は、事業所得の金
額が正確に計算できるようにその事業所
得を生ずべき事業に係る資産、負債及び
資本に影響を及ぼす一切の取引を正規の
簿記の原則に従って記録し、その記録に
基づき、貸借対照表及び損益計算書を作
成しなければならないこととされている
ため、納税猶予の適用を受けようとする
者については(その先代事業者も含めて)
青色申告の承認を受けている者であるこ
とを求めています。
⑥ 贈与により取得した特定事業用資産に係る
事業が、贈与の時において、資産保有型事業
(注1 )、資産運用型事業(注2 )及び性風俗
関連特殊営業(注4 )のいずれにも該当しな
いこと
(注1 ) 「資産保有型事業」とは、贈与の日の属
する年の前年から納税猶予期間が終了す
るまでのいずれかの日において、特定事
業用資産に係る事業についての貸借対照
表に計上されている総資産の帳簿価額の
総額に占める特定資産(注3 )の帳簿価
額の合計額の割合が70%以上となる事業
をいいます(措法70の6 の8 ②四、措令
40の7 の8 ⑭)。ただし、資産保有型事業
に該当した場合であっても、その該当し
た事由が、事業活動のために必要な資金
を調達するための資金の借入れ等事業活
動上生じた偶発的な事由である場合には、
その事由が生じた日から6 か月間は資産
保有型事業に該当しないものとされてい
ます(措令40の7 の8 ⑭、措規23の8 の
8 ⑦)。
(注2 ) 「資産運用型事業」とは、納税猶予期間
中のいずれかの年(贈与の日の属する年
の前年を含みます。)において、特定事業
用資産に係る事業についての事業所得に

係る総収入金額に占める特定資産(注3 )
の運用収入の合計額の割合が75%以上と
なる事業をいいます(措法70の6 の8 ②
五、措令40の7 の8 ⑰)。ただし、資産運
用型事業に該当した場合であっても、そ
の事由が、事業活動のために必要な資金
を調達するために特定資産を譲渡したこ
と等事業活動上生じた偶発的な事由であ
る場合には、その事由が生じた日の属す
る年とその翌年は資産運用型事業に該当
しないものとされています(措令40の7
の8 ⑰、措規23の8 の8 ⑨)。
(注3 ) 「特定資産」とは、中小企業における経
営の承継の円滑化に関する法律施行規則
(以下「円滑化省令」といいます。)第1
条第26項第2 号イからホまでに掲げる有
価証券、不動産、預貯金、ゴルフ会員権、
貴金属等並びに特例事業受贈者及びその
関係者に対する貸付金・未収金をいいま
す(措規23の8 の8 ⑧)。
(注4 ) 「性風俗関連特殊営業」とは、風俗営業
等の規制及び業務の適正化等に関する法
律第2 条第5 項に規定する性風俗関連特
殊営業をいいます(措法70の6 の8 ②二
ヘ)。
⑦ 円滑化省令の定めるところにより都道府県
知事の確認を受けた個人事業承継計画に定め
られた後継者であること(措規23の8 の8
⑥)
(注1 ) この確認を受けるためには、認定経営
革新等支援機関(注2 )の指導及び助言
を受けて個人事業承継計画を作成し、令
和6 年3 月31日までに都道府県知事に申
請しなければなりません(円滑化省令16
三、17①④)。
(注2 ) 認定経営革新等支援機関とは、中小企
業等経営強化法の規定による認定を受け
た税務、金融及び企業財務に関する専門
的知識や支援に係る実務経験が一定レベ
ル以上の個人、法人、中小企業支援機関
等(税理士、公認会計士、金融機関、商
工会等)であって、中小企業に対して専
門性の高い支援事業を行うものをいいま
す。
⑵ 特例の対象となる事業の範囲
 この特例の対象となる事業は、小規模宅地特
例(措法69の4 )における特定事業用宅地等の
対象となる事業(措法69の4 ③一)と同一であ
り、その事業の範囲からは、不動産貸付業、駐
車場業及び自転車駐車場業が除かれています
(措法70の6 の8 ②一、措令40の7 の8 ⑤)。
⑶ 贈与者の範囲
 贈与の時前に特定事業用資産を有していた個
人で次に掲げる者(既にこの特例の適用に係る
贈与をしている者を除きます。)をいいます
(措令40の7 の8 ①)。
① 先代事業者であって次に掲げる要件を満た
す者(措令40の7 の8 ①一)
イ 贈与の時において所得税の納税地の所轄
税務署長に特定事業用資産に係る事業の廃
業届を提出していること又は贈与税の申告
書の提出期限までに廃業届を提出する見込
みであること
ロ 特定事業用資産に係る事業について、贈
与の日の属する年以前3 年間にわたり確定
申告書を青色申告書により所得税の納税地
の所轄税務署長に提出していること
(注) 所得税の青色申告制度では、事業所得
に係る一切の取引の内容を正規の簿記の
原則に従って記帳している者には65万円
(令和2 年以降は55万円)の特別控除が認
められ、それ以外の者については10万円
の特別控除が認められているところです
(措法25の2 )。この納税猶予制度の適用
を受けようとする者については、課税の
適正・公平のために正規の簿記の原則に
従って記帳している事業者が望ましいこ
とから、青色申告の承認を受けている者

のうち措置法第25条の2 第3 項の適用を
受けている者に限って納税猶予の適用対
象としています。
② 上記①の贈与者(先代事業者)と生計を一
にするその親族であって、上記①の贈与者か
らの贈与の後に特定事業用資産の贈与をして
いる者(措令40の7 の8 ①二)
(注1 ) 一般的に事業承継といえば、個人事業
者が有する自己の事業用資産を後継者に
承継させることをいうものと思われます
が、個人事業者の場合、配偶者等の親族
が有する資産を事業の用に供しているケ
ースも実在します。このように贈与者本
人が事業の用に供していなくてもその配
偶者等が事業の用に供していれば、広い
意味で贈与者の事業の用に供しているも
のとして考えられることから、実際に事
業をしていない者からの贈与についても
一定の場合には納税猶予の対象となる贈
与に含むこととしています。ただし、事
業承継はあくまで先代事業者からの承継
が前提であることから、事業をしていな
い者からの贈与については、上記①の贈
与者(先代事業者)からの贈与の後1 年
以内にされた贈与に限って納税猶予の適
用を認めることとしています。
(注2 ) 先代事業者が、個人の事業用資産につ
いての相続税の納税猶予(措法70の6 の
10①)の適用に係る被相続人である場合
には、当該先代事業者に係る相続の開始
後に特定事業用資産の贈与をしている者
も贈与者に含まれます

⑷ 特定事業用資産・特例受贈事業用資産の範囲
 特定事業用資産とは、贈与者(当該贈与者と
生計を一にする配偶者その他の親族等を含みま
す。)の事業(不動産貸付業等を除きます。)の
用に供されていた次に掲げる資産(贈与者の贈
与の日の属する年の前年分の事業所得に係る青
色申告書の貸借対照表に計上されているものに
限ります。)の区分に応じそれぞれ次に定める
ものをいいます(措法70の6 の8 ②一)。
 なお、ここでいう「贈与者」には、生計を一
にする配偶者その他の親族等を含むこととされ
ていることから、「贈与者の事業」は、贈与者
本人が営む事業のみならず、その生計を一にす
る親族が営む事業も含まれることになります。
したがって、贈与者が有する資産で、その生計
一親族の事業の用に供されていたものは、「事
業の用に供されていた資産」に該当することと
なります。
① 宅地等(土地又は土地の上に存する権利で
あって、建物又は構築物の敷地の用に供され
ているもののうち一定のものをいいます。) 
宅地等の面積の合計のうち400㎡以下の部分
(注1 ) 対象となる宅地等は、小規模宅地特例
(措法69の4 )における特定事業用宅地等
の対象となる宅地等と同一であり、耕作
又は養畜のための採草等の用に供される
ものが除かれる(措規23の8 の8 ①)と
ともに、棚卸資産に該当する宅地等及び
事業の用以外の用に供されている部分が
除かれています(措令40の7 の8 ⑥)。
(注2 ) 宅地等の面積については、事業を営ん
でいない個人との公平性を確保する観点
から、小規模宅地特例(措法69の4 )に
おける特定事業用宅地等と同様に400㎡を
上限としています。
② 建物(事業の用に供されている建物として
一定のものに限ります。) 建物の床面積の合
計のうち800㎡以下の部分
(注1 ) 対象となる建物からは、棚卸資産に該
当する建物及び事業の用以外の用に供さ
れている部分が除かれています(措令40
の7 の8 ⑦)。

(注2 ) 建物の面積については、宅地等の上限
面積(400㎡)と一般的に個人が事業を行
っていると想定される用途地域の指定容
積率の下限(200%)を踏まえ、800㎡を
上限としています。
③ 減価償却資産(②の建物を除きます。) 地
方税法第341条第4 号に規定する償却資産(注
1 )、自動車税又は軽自動車税において営業
用の標準税率が適用される自動車その他これ
らに準ずる減価償却資産(注2 )
(注1 ) 固定資産税の課税対象となる償却資産
は、土地及び家屋以外の事業の用に供す
ることができる資産(無形減価償却資産
を除きます。)を対象としている(地方税
法341四)ことから、固定資産税の課税対
象となっている償却資産は事業用資産で
ある蓋然性が高いと考えられます。
(注2 ) 「その他これらに準ずる減価償却資産」
とは、次に掲げる資産となっています(措
規23の8 の8 ②)。
イ  所得税法施行令第6 条第8 号に掲げ
る無形固定資産(鉱業権、漁業権など)
及び同条第9 号に掲げる生物(牛、馬、
かんきつ樹、茶樹など)
ロ  自動車税又は軽自動車税において営
業用の標準税率が適用される自動車以
外の自動車で、普通自動車にあっては
そのナンバーが1 、2 、4 、6 又は8
であるもの、軽自動車にあってはその
ナンバーが4 、6 又は8 であるもの
ハ  原動機付自転車、二輪の軽自動車、
小型特殊自動車(四輪以上のもののう
ち、乗用のもの及び営業用の標準税率
が適用される貨物用のものを除きます。)
 なお、上記イからハまでの資産に該当
しても、主として趣味又は娯楽の用に供
する目的で保有するものや事業の用に供
されていた部分以外の部分があるときは
その部分が除かれます。
 特例受贈事業用資産とは、贈与により取得し
た特定事業用資産のうち贈与税の申告書にこの
特例の適用を受けようとする旨の記載があるも
のをいいます(措法70の6 の8 ①)。
⑸ 適用対象となる贈与
 この特例の対象となる贈与は次に掲げる贈与
となっています(措法70の6 の8 ①)。
① 平成31年1 月1 日から令和10年12月31日ま
での間にされた贈与であること
② 先代事業者と生計を一にするその者の親族
からの贈与にあっては、①の期間内の贈与で
あって、先代事業者からの贈与又は先代事業
者の相続開始後1 年以内にされた贈与である
こと

従来の小規模宅地特例においては、①借入金
で事業用宅地を取得した上で、小規模宅地特例
を適用すると、相続税の課税価格を実質ゼロと
することが可能であり、②さらに、個人事業者
の債務には事業・非事業の区別がないため、当
該債務を他の非事業用資産と相殺することで、
事業と無関係な資産にまで節税効果が及ぶとい
った問題が指摘されているところです。こうし
た問題は小規模宅地特例に限られたことではな
く、個人の事業用資産についての納税猶予制度

の創設に当たっては、債務控除を利用した租税
回避を防止するため、事業用資産の価額から事
業用債務(=明らかに事業用とは認められない
債務を除いた債務)の価額を控除した価額をも
って猶予税額の計算をすることとされています

⑵ 経営承継期間
 非上場株式等についての納税猶予制度では、
事業承継後5 年間を経営承継期間として位置づ
け、都道府県知事の関与の下、承継後に円滑に
事業が行われているか確認し、経営承継期間経
過後は、この都道府県知事の関与なく、事業が
継続している限り納税が猶予される仕組みとな
っています。
(注) 事業承継後5 年間は、後継者の信用力が弱く、
経営状況も一般的に不安定になると考えられ
ることから、都道府県知事が事業継続を確認
するための期間として経営承継期間( 5 年間)
が設けられています。
 非上場株式等についての納税猶予を受けるた
めには様々な要件が設けられていますが、その
中で経営承継期間にのみ設けられている要件は、
主として、代表者要件、同族過半要件、同族内
筆頭株主要件など会社形態独自の要件となって
おり、こうした概念がない個人形態の事業承継
には、法人形態と同様の要件を設ける必要はな
いため、あえて経営承継期間に相当する期間を
設けないこととされています。
⑶ 雇用確保要件
 非上場株式等についての納税猶予制度では、
中小企業が雇用の確保を通じて地域経済の活力
を維持するための重要な役割を担っているとい
う思想のもと、経営承継期間(事業承継後5 年
間)は事業承継時の平均8 割の雇用を確保する
ことが要件とされています。
 一方、個人事業者の場合、法人並みに一定規
模の雇用を確保している事業者もいますが、一
般的には事業者単独あるいはその親族等の少人
数で事業を営んでいるのが実情と考えられます。
 こうした両者の事業規模の違いに着目し、個
人の事業用資産についての納税猶予制度では雇
用確保要件を設けないこととされています。
⑷ 全部免除事由
 非上場株式等についての納税猶予制度では、
納税猶予適用者が一定の重度障害を負った場合
には、納税猶予の継続要件の一つである認定会
社の代表者要件が緩和されています(措法70の
7 ③一等)が、個人の事業用資産についての納
税猶予制度では、法人という組織形態ではなく、
個人が自ら事業を担っているという個人事業者
の特性も考慮して、同じ程度の障害を負ったこ
とにより事業を継続することができなくなった
場合には、猶予税額の全額が免除されることと
されています(措法70の6 の8 ⑭四、70の6 の
10⑮三、措規23の8 の8 、23の8 の9 )。
(注) 非上場株式等についての納税猶予制度では、
一定の重度障害の場合の一部要件緩和のほか
に災害等が発生した場合の要件緩和措置が講
じられています(措法70の7 ~ 等)。これ
は、非上場株式等についての納税猶予制度では、
災害により生じた物理的損失のみならず経済
的損失等によっても猶予税額が確定してしま
う場合があるためです。こうした違いから非
上場株式等についての納税猶予制度と同様の
措置が個人の事業用資産についての納税猶予
制度では講じられていませんが、災害により
特例(受贈)事業用資産について一定の被害
を受けた納税猶予適用者は、災害被害者に対
する租税の減免、徴収猶予等に関する法律第
4 条の規定により被害を受けた部分に対する
猶予税額が免除される場合があります。
⑸ 納税猶予対象資産の担保提供
 非上場株式等についての納税猶予制度では、
本来国税通則法上の担保として認められていな
い非上場株式等の担保提供を例外的に認めてい

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